「愛の悲劇」人生はすれ違いの連続か?オペラの醍醐味が詰まった傑作 プッチーニ「トスカ」

 

「トスカ」はプッチーニの最も有名なオペラの一つであると同時に、彼自身の絶頂期の作品です。

俗に言うプッチーニの三大オペラがそれですが、作曲年代もほぼ同じで、「蝶々夫人」「ラ・ボエーム」に優るとも劣らない充実度満点の魅力作なのです。

このオペラはエキサイティングなストーリー展開や胸を打つ叙情的な雰囲気が印象的です。随所に現れる感情表現、情景描写もプッチーニならではで魅力的です。

オペラ初心者の方にとっても理解しやすいストーリー展開がツボにはまりやすく、忘れられないオペラ体験となるでしょう!

 

あらすじ

1800年のローマ。
当時ナポリ王国はローマをも支配下に置く強力な勢力を持つ国だった。この作品はローマに派遣された警視総監と弾圧される共和主義者の対立が背景にある。
人気オペラ歌手のトスカは、共和主義者で画家のカヴァラドッシと恋に落ちる。しかし、カヴァラドッシはローマを支配していた警視総監スカルピアから絶えず命を狙われていた。
脱獄してきた友人をかくまった罪でカヴァラドッシはスカルピアに逮捕されてしまう。スカルピアはトスカを呼び出し、恋人の命と引き換えに肉体を要求するが逆にトスカに殺される。
スカルピアが引き換えの条件として、「カヴァラドッシの処刑の銃弾は空砲にする」という約束は実は嘘で実弾が彼を撃ち抜いてしまった。
後を追うようにトスカも城壁から飛び降りてしまう。

 

オペラの王道を行くオペラ

Marcelo Alvarez as Cavaradossi (left) and Karita Mattila in the title role of Puccini’s “Tosca.” Photo: Ken Howard/Metropolitan Opera Taken during the rehearsal at the Metropolitan Opera on September 11, 2009.

 

「トスカ」はあらゆるオペラの中でも、指折りの人気を誇る公演プログラムです。全世界で上演される回数も群を抜いているし、それだけお客様を呼べる魅力のオペラなのです。

ストーリーは終始エキサイティングに揺れ動く愛憎のドラマで、最期は悲劇的な結末を迎えます。

しかし人気が衰えることはありません。一般的には敬遠されても仕方がない内容なのですが何故なのでしょう……?

まず何と言っても音楽や台本がよく出来ています! 特に音楽は人の心をつかむ術をよほど熟知しているのか、聴くたびに魅了されてしまいます。

美しいアリアの数々やオペラ的な要素がふんだんに盛り込まれていて、見た後の満足感が極めて高いのです。

全三幕で2時間45分程度の作品ですが、内容がギュッと凝縮されているために何度見ても飽きることはありません。

人物の相関関係に複雑な展開がないため、シンプルに音楽や舞台に没入できるのもいいですね。

 

各幕に聴きどころ満載!

Photo credit: Canadian Opera on Visualhunt / CC BY-NC-ND

 

音楽とストーリーが遊離していないのも、このオペラの魅力ですね。

悪代官スカルピアが登場し、悪巧みを工作したり、非情の限りを尽くすシーンは特に説得力があります。

たとえば第一幕終結部で憎しみの炎を燃えたぎらせながら、聖歌隊とともに高らかに歌う「テ・デウム」は強烈な印象を与えます。

また、第二幕でスカルピアがカヴァラドッシを拷問し続ける場面は歌手たちの絶唱を伴う演技が忘れられません!

音楽が間延びしないで、息を飲むような展開が連続するのも見事です。プッチーニの人物描写や情景を彷彿とさせる音楽性、インスピレーションの凄さに酔わされるオペラとも言えるでしょう。

 

 

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心憎い情景描写と演出

サンタンジェロ城(ローマ)

情景描写と感情表現の美しさは第三幕で最高潮に達します。

特に印象的なのが第三幕の冒頭でしょう。

カヴァラドッシが囚われたサンタンジェロ城の牢獄シーン。

サンタンジェロ城の近くにはサン・ピエトロ寺院があります。鈴なりの馬車が通行したり、柔らかい陽射しが差し込んできたり、教会の鐘が鳴り響いたりと、いつもと変わらない平和な朝のようすが音楽で美しく表現されます。

しかし、カヴァラドッシの心境は悲痛そのものでした。「永遠に愛する人と別れを告げなければならない」という無念さが、音楽の美しさとともに深い哀しみを誘います。

プッチーニは日常の平和な情景を丁寧に描くことで、カヴァラドッシの打ちひしがれた心境を絶妙に描き出したのでした。

ここでの場面転換の巧さや対比の美しさは、このオペラ最大の聴きどころと言ってもいいでしょう! 回想するように懐かしいテーマをチェロで歌わせるところも音楽が冴え渡ります。

この想いはやがて有名なカヴァラドッシのアリア「星は光りぬ」に受け継がれていくのです…。

聴きどころ・見どころ

第1幕 妙なる調和

教会の壁画を描くカヴァラドッシが歌う甘美で叙情的なアリア。

画家のカヴァラドッシが描かれた聖女像の出で立ちに感激しながらも、トスカへの熱烈な愛を歌う。

第1幕 テ・デウム

司祭に付き添われて枢機卿が現れ,祭壇に進んで群衆に祝福を与える場面。

聖歌隊が「テ・デウム」を歌う傍ら、スカルピアは、策略をめぐらしながらつぶやき続ける。

第2幕 歌に生き、愛に生き

カヴァラドッシの拷問を止めてほしいと頼むと、スカルピアから「引き換えに俺の女になれ」と非情な条件を突きつけられる。その時の苦悩を歌う。

第3幕 サン・タンジェッロ城の屋上

朝を告げる鐘の音と羊飼いの牧歌が聞こえる。カヴァラドッシは夜明けに行われる処刑を牢屋で待っている。

カヴァラドッシは看守に指輪を与えてトスカに伝言を渡すように頼む。トスカに別れの手紙を書きながら美しい思い出がよみがえるのだった…。

外の平和な情景とは別世界の打ちひしがれたカヴァラドッシの心境をプッチーニは美しい情景描写を交えながら巧みに表現。

第3幕 星は光りぬ

単独でも歌われる有名なアリア。別れの手紙を書き始めるが、自らのあっけない死と恋人との永遠の別れを想うと胸が締めつけられ泣き崩れる。

 

 

名盤を聴く

プラデルリ指揮&聖チェチーリア音楽院管弦楽団・合唱団、レナータ・テバルディ、マリオ・デル・モナコ、ジョージ・ロンドン他

まずはプラデルリ指揮&聖チェチーリア音楽院管弦楽団・合唱団、レナータ・テバルディ、マリオ・デル・モナコ、ジョージ・ロンドン(DECCA)が歌手、指揮、伴奏すべてに揃った名演です。

1958年のスタジオ録音ですが、音質は当時のものとしては驚異的にいいですね。

テバルディのトスカは声質はもちろん、細かな感情表現や女性的な透明感など素晴らしいの一言です。マリオ・デル・モナコの癖がなくピーンと張り詰めた美声も胸をすきます。

ブプラデルリの指揮は大げさなところは皆無なのですが、音楽的に大変美しくあらゆる場面が心に染み込んでくるようです。トスカを初めて聴く方には大いにオススメしたいですね。

 

ジョルジュ・プレートル指揮パリ音楽院管弦楽団&合唱団、マリア・カラス、カルロ・ベルゴンツィ、ゴッピ他

もう一枚はジョルジュ・プレートル指揮パリ音楽院管弦楽団&合唱団、マリア・カラス、カルロ・ベルゴンツィ、ゴッピ(ワーナークラシック)も壮絶な名演奏です。

トスカを歌うカラスは10年前のモノーラル盤と同じで相変わらずの凄さです。歌と演技、雰囲気のすべてが一体となってカラス自身がトスカの化身のようです。ベルゴンツィの感情移入も素晴らしく、カヴァラドッシの誠実な人柄を彷彿とさせるようです。

そして何と言ってもゴッピの悪役ぶりは天下一品です。主役二人を食うような存在感や表現力は凄いと言わざるを得ません。

プレートルの指揮は全編に血が通い、時にはやりすぎなのでは‥…と思うくらい表情が濃いのですが、本質をしっかり把握した演奏は本当に見事で、このオペラに華を添えています。

 

 

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