故郷への限りない愛情を驚くべき感性で描きあげる ジョン・コンスタブル 「乾草車」(1821年)

コンスタブル:乾燥車(1821年、ナショナル・ギャラリー)

 

夏の日の情景を心を込めて描く

コンスタブルが画家として大きな転機を迎えるきっかけとなったのが、ロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されている「乾草車」(1821年)です。

この絵はコンスタブルの代表作としても名高く、自然のめくるめく変化や感動が大いなる共感とともに描かれているのです!

絵の題材となった故郷サフォークへ寄せる愛情、想いは半端ではありません…。

夏の日特有のムンムンした蒸し暑さや大気の状態、エネルギーに満ちあふれたひとときの情景を、ものの見事に伝えてくれるのです。

「乾燥車」はアカデミズムを謳うイギリス画壇では不評でしたが、パリのサロンでは荒々しくも生き生きとしたタッチが絶賛されたのでした。

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雲の動きに魅せられる

 

 

A Cloud Study, Sunset 1821

 

Clouds 1822

 

 

「乾燥車」でハッと気がつくことがあります。

それは夏空に浮かぶ雲や空の表情が驚くほど多彩で変化に富んでいることですね。

生き生きとした雲の動きや空の表情を見ると、この絵がどれほどの強い共感を持って描かれているのかが伝わってくるようです。

 

コンスタブルが1819年に住居を構えたハムステッド(ロンドン郊外)は有名なハムステッドヒース(伝統ある自然公園)が眼前に広がっていました。

そこで彼はヒースから眺める壮大な自然の姿にすっかり魅せられてしまいます。中でも、刻々と生き物のように表情を変える「雲」の存在に心を奪われてしまったのでした。

コンスタブルは雲の表情や動きをメインにした絵を相当数(上記三枚の絵など)描いていて、その数は連作、試作も含めると膨大な量に及ぶことでしょう。

コンスタブルの絵を語るうえで「雲」は絶対に欠かせない要素の一つなのです。

それは彼が風景画において雲が及ぼす影響の大きさや時間の流れを克明に伝える要素としての役割を実感していたからなのでしょう。

コンスタブルの絵を眺めていると雲の表情を捉えるだけでも充分に絵として成り立つことが分かります。 

 

日常の魅力や発見を感性豊かに再現

コンスタブルは一般的によく言われる、独善的で気難しい芸術家タイプとはかけ離れた存在だったのでしょう。

またあまり名誉や欲には執着しなかったようですね…。

画家としては、かなり遅咲き(ロイヤルアカデミーの正会員になったのは53歳の時)だったのも、そういうところに理由があるのかもしれません。

 

「乾燥車」からは様々なメッセージが伝わってきます。

色彩やタッチの変化から際立つ木々の様々な表情や、雲の表情から垣間見られる変わりやすい夏の日の大気の流れ……。

素早いタッチで描かれた沼地の存在感と水面の煌めき、そこを走行する乾燥車を描いた日常の他愛のない情景は、忘れがたい記憶の余韻として刻み込まれているのです!

これこそ、コンスタブルの故郷への限りない愛情が脈々と息づいている証しといえるでしょう。

 

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