人生の喜怒哀楽を壮大なスケールで凝縮させた風景画  ブリューゲル「雪中の狩人」 

ピーテル・ブリューゲル「雪中の狩人」1565年 サイズ117 cm × 162 cm 、ウィーン美術史美術館

 

教科書に載っていた凄い絵

ブリューゲルが描いた「雪中の狩人」を初めて知ったのは中学の美術の教科書でした。

この絵が放つ独特のオーラや存在感は他に掲載されていた名画も霞んでしまうほどでした。それ以降、彼の存在は気になって仕方なく、一度見ると底なしの魅力にグイグイ引きこまれてしまうのです。

ブリューゲルは16世紀のベルギーの画家で、2017年に日本でも公開された「バベルの塔」などで有名な人です。

 

聖書の格言を描いた「バベルの塔」は、気が遠くなるような丹念な描写が観る者の度肝を脱ぎます。圧倒的な存在感と壮大なスケールは、一度見ると忘れられない強烈な印象を受けたものでした。

その他に、農民の日常を生き生きと描いた一連の風俗画も定評があります。

あたりまえの絵ではなく、一癖もふた癖もあるのに、人の心を鷲掴みにしてしまうその魅力はいったいどこからくるのでしょうか……。

 

物語の扉を開く

「雪中の狩人」は雪の日の様子を描いた雄大な風景画です。通常は美しい風景画を見ると気持ちがなごむという方は少なくないでしょう。

でもこの絵は、決して「気持ちがなごむ」とか「癒やされる」という類の絵ではありませんね。

画面全体から伝わる幻想的な味わいは、なぜか物語の扉を開いたような感覚にとらわれます……。

あたり一面に拡がる銀世界……。雪に覆い尽くされた独特の雰囲気が静けさや閉塞感まで伝えてきます。くすんだ抹茶色のような色調の空や凍った沼には神秘的な空気も漂います。

この絵にはあらゆるところに、観る者の視線を誘導する仕掛けが施されているのです。そして、謎解きのような面白さも加味しながら、絵の中で様々なストーリーが展開していきす。

見出しに風景画と銘打ちましたが、やはりどう見てもただの風景画ではありません。

ここには、そこに暮らす人々との喜怒哀楽だけでなく、心象風景のように象徴的な意味も込められているのです。

 

発見と驚きの連続!

地平線の彼方はいったいどこまで続いているのだろう……、と思わせる見事な構図と緻密な表現には驚きとともに溜息が出ます。

情報量の多さも圧倒的ですね!

どんな細部も疎かにしない確かな表現力や通り一辺倒ではない感性が半端ではありません。おそらく何時間眺めていても飽きないでしょうし、あらゆる部分に驚きと発見があるのです! 

 

たとえば、絵の左下前方で狩りの収穫が思うようにならなかったのか、がっくりとうなだれながら歩く狩人たちの姿。それについて行く犬の様子が印象的です。

遠くに目を移すと、凍った池の上でスケートやそりすべりをして楽しむ人々の姿が見られます。

どうしようもない人生の不条理を絶妙な比喩や対比を加えながら、一枚の絵の中で破綻なく見せているところにブリューゲルの凄みを感じます。

人間の力ではどうにもならない世界

 

「雪中の狩人」はここに住む人々の人生の一コマが絶妙に表現されているのですが、それさえも雄大な自然の前ではほんの些細な出来事に過ぎず、無力でしかないという印象があります。

この絵をジッと眺めていると、「苦しいこと、悲しいこと、うれしい事……。人生で体験する様々な出来事は、私たちが考えるほど大したことではないのかもしれない」と思えてくるから不思議です……。

これこそが名画たる所以かもしれません!

神秘的で深みがある落ち着いた空の色や雪景色、微動だにしない深遠な山々の姿はとても印象的です。

前方の画面を縦に割るような木々の存在や奥行きのある風景がこの絵をますます魅力的に演出しています。

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