優しい筆のタッチが生む詩情豊かな風景 コロー「モルトフォンテーヌの思い出」

夢の出来事を切りとったような詩的な風景

コロー/モルトフォンテーヌの思い出(1864年、ルーブル美術館)

 

絵には人柄が表れるといいますが、それは本当ですね……。

ミレーと並ぶフランス・バルビゾン派の画家として有名なコローですが、彼は才能ある貧しい画家たちへの経済的な援助や協力を惜しまなかったといいます。

そのような人柄は彼の絵にもしっかり反映されています。

コローの描く風景画はただの風景画ではありません。風景画というよりはそこに愛情や想いを投影させ、夢のような場面を描き出すのです。

 

いつまでも心に留めておきたい大切な思い出を持っている方は多いことと思います……。

コローの『モルトフォンテーヌの思い出』は、まさにそのような誰もが心に抱く美しい記憶を絵に留めた稀な作品といっていいでしょう。

夢の中の出来事を切りとったかのような詩的な情景が心に深く刻まれます。

一見、渋めの落ち着いた絵に見えますが、これほど心をなごませ、多くのインスピレーションを与えてくれる絵はなかなかないでしょう。

コローの絵は、後の印象派、現代絵画の画家たちにも大きな影響を与えています。

それは光や風が少しずつ移り変わる様子や、緩やかな時間の流れを感じさせる独特の技法が多くの画家のインスピレーションを刺激したからなのでしょう……。

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グレートーンが醸し出す優しさ

西洋絵画の歴史を紐解いても、コローほどグレートーンの繊細な美しさを堪能させてくれる人はいません。

色彩の過度な表現を抑制しているために、見る人の疲れた心を癒やし、気持ちを落ち着かせてくれる効果もあるのでしょう!

そして磨き上げられた色彩の美しさは一種の気品さえ漂わせています。

 

コローの代名詞と言える樹々を揺らす優しい風や柔らかな光は、本作でもその魅力が充分に伝わってきます。

柔らかで落ち着いた色彩は湖に反射する優しい光を引き立てているし、木漏れ日がグレートーンの色調と美しく響きあってロマンチックな情緒を生み出しているのです。

コローはフォンテーヌブローの森をはじめとするフランス各地での屋外スケッチも数多く残しています。

好んで木を題材として描いたのも「木との語らい」、「自然との対話」が彼にとってかけがえのないものだったからなのでしょう…。

In the Dunes Souvenir of The Hague(1869)

 

Souvenir of Italy (1871)

 

「モルトフォンテーヌ」はグレートーンの落ち着いた色調で構成されているため、左の片隅で小さな木を囲んで無邪気に遊ぶ3人の女の子たちが絵の中でいいアクセントになっています。

また、女の子たちの周囲で可憐に咲いている花々は、何気ない日常を靜かな幸福感で満たしてくれるのです……。

 

コローの重要なモチーフとして、また主役として何度も彼の絵に登場する「木」ですが、おそらく彼にとって「木」とは心の機微を反映させる最高のモチーフだったのでしょう。

 

最大の魅力は木々のささやき

 

木は光や空気、風の影響を受けると様々な表情を見せます。

風にそよぎ、北風になびく木の表情。晴天の穏やかな光に照らされる木の葉の輝きや美しさ…。

それはちょうど木が自然現象を通して、私たちに囁きかけているようにも見えます。

そしてそのような繊細な感情を、最もよく表現しているのがコローの絵といってもいいかもしれません。

湖にせり出す大きな木が醸し出す細やかな表情は、絵に潤いや温もり、奥行きを与える決定的な要素となっているのです。

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